2022.11.28EXHIBITIONS

草彅裕写真展「水を伝う」

秋田県仙北市にある一級河川「玉川」。玉川の源流付近ではPH1.2の日本一の強酸性水が噴出しており、辺りは草木も生えず生物も住めないことから、古くからこの酸性水は「玉川毒水」と呼ばれてきました。轟音と煙とともに毎分約9,000ℓの酸性水が湧出する様子に、人の手を寄せ付けない原始の自然として恐れを抱くとともに強く惹かれ、16年間に渡り撮影を続けてきたと草彅氏は言います。「玉川毒水」を巡る毒水と清水、自然と人の関係を見つめなおそうと「瞬間と循環」をテーマに撮影された、多彩で力強くも繊細な作品をご覧ください。

~写真家草彅裕からの写真展紹介~
カメラを手に故郷の自然と対峙し、気がつけば長い月日が流れました。写真を撮影することは常に特別な時間であり、その時々で移ろう状況や心情から切り離され、目の前に広がる光景に没入するような感覚があります。

「玉川」は、私の生家の近くを流れる親しみ深い場所です。幼少のころより、夏には友人と川遊び、秋には家族と鍋っこを楽しんでいました。一度は深瀬に入り溺れかけ、慌てて祖父に助け出された記憶がいまでも鮮明に残っています。生まれ育った土地に心身を委ね、自然を五感で感じながらシャッターを切ることで、写真を撮るために必要なリアリティーを得ることができます。

一方で、私たちの日常はインターネットの巨大な流れに飲み込まれ、仮想現実が身体を置き去るように広がっています。事物が情報として急速に拡散、拡張される時代に生きるからこそ、移ろうことのない根源的な問いを写真によって追求したい。故郷に巡る水を伝い集め、人と自然、瞬間と循環が交わる写真の流れを創造することで、新たな視座を獲得できると信じています。

 

<草彅 裕(くさなぎ・ゆう)プロフィール>
秋田県仙北市出身。東北芸術工科大学大学院芸術工学研究科デザイン工学専攻修了。大学在学中に写真家・民俗学者の内藤正敏と出会い、本格的に写真を始める。秋田で撮影した雪夜のシリーズ「SNOW」で写真新世紀 佳作賞(蜷川実花選)を受賞。KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭の公式プログラム「ネイチャー・イン・トーキョー」にフランスの新聞社「ル・モンド」より選出される。キヤノン「SHINES」受賞(梶川由紀選)。著書に『SNOW』『PEBBLES』がある。現在では生まれ育った秋田県内の自然や風土を、写真でしか捉えることのできない不可視の「瞬間と循環」をテーマとして撮影。秋田を拠点に国内外で多数の個展、グループ展において発表を続けている。


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