2015.06.26EXHIBITIONS

野町和嘉写真展「地平線の彼方から ~人と大地のドキュメント」

野町和嘉は1972年のサハラ砂漠以来、ナイル川源流、アラビア半島、チベット高原、アンデス山脈など、自然環境の厳しい地域を中心に、地球規模で取材を重ねてきました。

乾燥、暑熱、極寒、高山。悠久の大地が織りなす造形と、その荒々しい自然に向き合いながら生き抜く人々。彼の作品は、ドキュメントであると同時に、一枚一枚がアートとも言えるリリカルな美しさをもち、「シュテルン」「GEO」「ナショナル ジオグラフィック」など海外の雑誌に取り上げられ、主だった写真集はすべて数カ国版で国際出版されています。つねに世界に向けて発信できるのは、作品に、民族性や文化の違いを超えて深い感動を呼ぶ普遍性が秘められているからです。

インターネットによって世界が繋がれ、加速度的に変化していくなかで、野町は変わらない人々の精神 文化を捉えています。地平線がどこまでも続く大風景や、日本とはおよそかけ離れた環境で暮らす人々の姿は、見る人の心に静かに染みいり、語りかけてきます。

本展では40年余にわたる「人と大地のドキュメント」より、世界的にも知られるナイル奥地、サハラ砂漠、チベット高地、メッカ&メディナ、ガンジスなどの代表作に砂漠の古代壁画タッシリ・ナジェール、2014年に30年ぶりに訪れたバハル、2015年の天空の渚(アンデス、パタゴニア)、そして2016年に撮影した中南米などの写真作品約200点を一堂に展観します。

構成
●第一部 「地平線の彼方から」
1972年にサハラ砂漠を訪れ、極限の自然とそこに生きる人々に魅せられた野町和嘉は、風土と信仰を軸に据えて、今日まで地球規模の取材を続けてきた。本シリーズでは40年余にわたるドキュメントのなかから、世界的にも知られる代表作をはじめとして、2008年以降に再取材を重ねてきたサハラ砂漠、チベット高原、イスラームの聖地メッカ、アンデス高地などを加えて展示する。
●第二部 「サハラ、砂漠の画廊」
サハラ砂漠の最奥地、アルジェリアとリビアの国境地帯にタッシリ・ナジェールと呼ばれる山脈が横たわっている。タッシリ・ナジェールとは、トゥアレグ族の言葉で、「川のある台地」を意味する。台地上はどこまで行っても岩盤剝き出しの乾きの極地であるが、太古の時代に満々と水をたたえていた、深いワディ(涸河)が何本も走っている。さらに台地上には、高さ20メートル前後の尖塔のような山塊があちこちに聳えている。岩の基部は水によって深く抉られており、それらの岩陰は、古代人にとって格好の住み処であった。
人々はその岩陰におびただしい数の絵を残してきた。かつてサハラが緑におおわれていた時代に住んだ狩猟民(紀元前7000年頃~紀元前3500年頃)、その後に現れた牛牧民たち(紀元前5000年頃〜紀元前2000年頃)。さらに乾燥化が進んで、馬が登場した時代(紀元前約1200年以降~)からラクダの時代(紀元前約100年以降~)へと、約8000年にわたって、環境の変化に応じて移り住んできた様々な人種によって描き続けられてきた。
絵のモチーフは、祭儀場面、神と思われる巨大な人物、おびただしい数の牛たち、戦闘場面、狩猟、野生動物、二頭の馬が牽く戦車など、日常のあらゆる情景に及ぶ。現在は乾きの極地と化し、死の沈黙が支配する岩陰に、サハラ8000年の歴史を辿ることの出来るおびただしい壁画が息づいているのである。
●第三部 「バハル再訪」
ヨーロッパから持ち込んだ四輪駆動車を駆ってナイル川流域踏査の旅を開始したのは、1980年10月、野町和嘉、34歳のときだった。全アフリカを凝縮したナイル川流域の多様な自然と人々の暮らしは、それまでサハラ砂漠をたびたび訪れ、アフリカに取り憑かれた野町をすっかり魅了した。
なかでもスーダン南部、サッドと呼ばれる湿原・サバンナ一帯で営まれていた、数千年来変わらない、文明以前とも言える、人と牛の共存社会は衝撃的だった。だが不幸なことに、歴史的に、スーダン北部に暮らすイスラーム教徒による、奴隷の草狩り場でしかなかったこの地域は、1983年から、終わりなき南北内戦と飢餓の凄惨な原野と化していった。
2011年、南スーダンが分離独立を果たして旅が可能になったのを契機に、あの牧畜社会はどうなったのか、ぜひとも見届けたいと熱望するようになった。そして実に32年という歳月を経て、2012年12月、野町は、牛と人が共存する果てしない原野に立つことが出来たのだった。当然ながら時代の波はアフリカ最奥地にも到達してはいたが、ディンカ族、ヌエル族と呼ばれる牧畜民と牛たちが、マラリア蚊除けに燃やされる牛糞の煙たなびくなかで、共生している暮らしは脈々と受け継がれていた。
「バハル」とはアラビア語で川や海を意味し、この地ではナイル川を指してそう呼んでいる。
●第四部 「天空の渚」
アンデス高地、標高3700メートルの原野に広がる塩の地平、ウユニ塩原。
深さ数センチ、雨期の雨水がどこまでも均一に張りつめ、壮大な「天空の鏡」と化した渚を、上空の雲行きと対を成して、荒れ模様の夕焼け雲が足早に通過してゆく。
メキシコ、ボリビア、チリ、アルゼンチン。インカやアステカに受け継がれてきた先住民の信仰と、征服者スペインが16世紀に持ち込んだカトリックが習合した、ラテンアメリカ特有のキリスト教信仰に興味を持ち,中南米に旅するようになって10年以上になる。そして2015年初頭に彼の地を再訪。宗教文化への関心とともに、野町を魅了して止まないのは、ウユニ塩原に象徴される億年単位の凄まじい地殻活動によって創りあげられた南米大陸特有の自然景観である。


巡回一覧

2015年