ソ連崩壊直後の1992年に撮影された、矯正労働収容所のドキュメント
ウクライナ侵攻で露わとなったロシア底流に淀むカオス
本書に収載された写真は、写真家 野町和嘉がソビエト連邦の消滅(1991年12月26日)から間もない1992年3月に、極東シベリア、ハバロフスク近郊にある2カ所の収容所(矯正労働収容所)を主な舞台として撮影したものである。
未開の地シベリアは、帝政ロシアの時代から犯罪者や戦争捕虜などに強制労働を課す抑留の地でもあった。ソビエトの時代、囚人を使役する収容所産業が、国家建設に欠くことのできない基幹事業として位置づけられていた。
ペレストロイカが浸透しつつあったソビエト連邦の末期、政治犯はほぼいなくなっていたが、おびただしい数の刑事犯を収容し、労働力として使役する収容所産業は絶えることなく稼働していた。そこでは、強権政治がもたらす世相から脱落した弱者でもある受刑者たちの、重苦しくも、淡々と過ぎゆく日常を垣間見ることができた。
この度世界は、ロシアによるウクライナ侵攻という凄惨な現実を突きつけられた。ウクライナから連れ去られた人々の一部は極東シベリアにまで強制移送される、とも報じられている。それが現実であるなら、写真家が30年前に垣間見た光景に、新たな要素が上書きされることになるのだろうか。
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