写真集『東京影絵』
新型コロナウイルスの感染拡大で、復興五輪を掲げた 「TOKYO 2020」は開催延期となり、「ニューノーマル」と呼ばれる奇妙な生活がはじまった東京。少子高齢化にあえぐ農山漁村をよそに、人口と経済の一極集中とグローバル化で肥大化してきた首都は、ウィズコロナ時代の幕開けから、どのように変容していくのか?
『東京影絵』は、東京のいまを生きる19カ国・60人の外国籍の人々と、バリの伝統影絵を駆使する現代の影絵師・川村亘平斎によるセッションである。
舞台はパンデミック前夜の東京。
口上は彼・彼女らのセルフドキュメンタリー。
そして白い幕に、顔の肌理に、路上の闇に投射される影絵人形は、彼・彼女らの写身である。
成功を夢見る技能実習生、多様化する東京のムスリム、帰化を望む中国人女性…。 日本社会のウチ/ソトのあわいで揺れ動く「いくつもの東京」の顔がおが、この都市の実像と、やがてくる未来を語りはじめる。
「影絵のように、東京の未来が浮かぶ。きのうと明日の日本人が見える。」
赤坂憲雄(民俗学者)
「東京で暮らしている外国人は、この不思議に静かで、複雑に絡まった大都市についてどんなことを思っているのだろう。とても興味がある。
だって私たちは外国人に会う機会も少ないし、近所に住んでいる外国人と短い会話をする機会があったところで、彼らは日本人である私たちがドキッとすることまでは言わないだろう。
ご飯が美味しいですとか、治安が良くて安心ですとか、そういう当たり障りのない言葉が、光の当たる表の顔から聞こえてくる。路地裏に浮かび上がった影絵の顔は、どんな本音をしゃべってくれるだろうか。
彼らが日本に住んでいる理由はさまざまだ。自分の国では肌の色で人間扱いされないから帰りたくないという人もいれば、ドラマで見た世界に憧れて来たけどそのうち帰るつもりという人もいる。
どんな理由であれ、東京で暮らす間、心休まる(仮の)居場所を見つけてくれたらいいなと願う。彼らが漏らすユニークな言葉を読んでみて、東京をもっとよくするヒントは外国人が握っていると感じました。
外国人を邪魔者にするか、味方にするかは、彼ら次第ではなく、私たち次第なんだと思います。」
コムアイ(水曜日のカンパネラ)
【『東京影絵』プロジェクトについて】
インドネシアで影絵芝居ワヤン・クリットを習得した川村亘平斎と、キュレーターの宮本武典が、日本で生活する外国籍の人々の「東京」をめぐるオーラルヒストリーを影絵化する「東京ビエンナーレ2020/2021」参加プロジェクト。この10年で多国籍化が急速に進んだ東京。東京影絵クラブでは、東京オリンピック・パラリンピック競技大会への邁進と挫折、その要因となったCOVID-19感染拡大により、歴史的転換点となった2020年の日本社会を、多様な視座からスクリーンに映し出しながら、母国語や根ざす文化が異なる私たちがともに生きる「あたらしい東京」への道筋を考えていきます。
プロジェクトページ:https://tb2020.jp/project/tokyo-shadow-theater-club/
著者インタビュー:https://note.com/tokyobiennale/n/n5466eaaee13c
【著者プロフィール】
川村亘平斎 Koheisai Kawamura
影絵師、音楽家。1980年東京生まれ。インドネシア共和国・バリ島にのべ2年間滞在し、影絵人形芝居「ワヤン・クリット」と伝統打楽器「ガムラン」を学ぶ。アジアを中心に世界各国で影絵と音楽のパフォーマンスを発表。また、日本各地でフィールドワークやワークショップを通じて、土地に残る物語を影絵作品として再生させる活動も高く評価されている。ガムランを使った音楽ユニット「滞空時間」主宰。平成28年度第27回五島記念文化賞美術新人賞受賞(2016年)。
宮本武典 Takenori Miyamoto
キュレーター、アートディレクター。1974年奈良生まれ。武蔵野美術大学大学院修了。バンコク、パリ、東京でキュレーター/エデュケーターとして活動したのち、2005年より東北を拠点に、民俗学者や建築家らと協働する地域再生プロジェクトや東日本大震災からの復興支援事業を展開。2014年に「みちのおくの芸術祭 山形ビエンナーレ」を創設し、プログラムディレクションを3期・6年にわたって手がけた(~2018年)。主な展覧会として、石川直樹「異人 the stranger」、向井山朋子「夜想曲/Nocturne」、隈研吾「石と木の超建築」などがある。
- 2,420円(税込)
- 判型・B5判変型 カラー・モノクロ 112ページ
- ISBN・978-4-909532-50-3